05
032012
7)吸い込み説
女性のオーガズムにはどのような意味があるのか、7回目は「吸い込み説」です。
この説はイギリスの生物学者ロビン・ベイカーとマーク・ベリスによって提唱されました。ロビン・ベーカーは「精子戦争」の著者で、この本は世界中で話題になりました。「精子戦争」は、この説を中心として書かれた本ですから、そういう関係もあって、この説は非常に有名です。
それでは「吸い込み説」はどういうものなのでしょうか?この説は、オーガズム時に膣が強く収縮し、それによって子宮内に陰圧が生じ、射精された精子が子宮内に吸い込まれる、というものです。
この説の革新的なところは、どの男性の精子を受精させるかを「女性側」がコントロールできるという点です。お気に入りの男性とのセックスで、選択的にオーガズムに達すればいいわけですから。
これを裏付けるような研究もあります。ニューメキシコ大学のランディ・ソーンヒルは、ヘテロセクシャルのカップル86組の男性側の外見を詳細に解析しました。そしてその後、パートナーの女性がセックスによってオーガズムに達する頻度を調べたのです。その結果は、「男性のシンメトリー度(左右対称性)が高いほど女性はオーガズムに達しやすい」というものでした。
生物にとって、「身体の左右対称性」は強い生命力や生殖能力をもっていることの証明なのだそうです。すなわち、優れた遺伝的形質を持っている相手とのセックスほど女性はオーガズムに達しやすい、と考えられるのです。
「女性がオーガズムによって相手の男性を選択できる」
いままで受胎に関しては受け身の存在と考えられてきた女性たちにとっては、この説は非常に新しいものです。
しかし、この説もやはりほかの説と同様に欠点があるのです。
第一に、この説ではレイプ被害による妊娠率の高さを説明できません。レイプはオーガズムとは程遠いセックスの形態ですが、なぜか被害者の妊娠率が正常のセックスよりも高いのです(この問題についてはまた後で記事にします)。
第二に、妊娠に適した若い女性よりも、妊娠しにくい中年の女性のほうがオーガズムに達しやすいことが知られています。オーガズムが受胎と密接に関わっているのなら、このデータと矛盾してしまいます。
第三に、ベイカーらの研究およびソーンヒルの研究には問題があるようです。実際には、様々な研究者らの研究から、オーガズムによって精子が「吸い込まれる」現象は全く観察されていません。また、ソーンヒルの研究では「男性側の回答」も結果に組み込まれて閉まっているそうです。「パートナーはイッた?」「うん、イカセたよ」という自己申告では研究としてはちょっと問題がありますよね。男性はペニス長も大きめに自己申告することが知られていますし……。
というわけで、魅力的なこの説も決定的なオーガズム説とは言えないようですね。